内科・呼吸器科・アレルギー科 盛岡市 ゆい内科呼吸器科クリニック

アレルギー

「新しい減感作療法-舌下免疫療法について」(2015年盛岡市医師会報に掲載)

ゆい内科呼吸器科クリニック 青山洋二

はじめに

 2014年10月よりスギ花粉症に対する舌下免疫療法(SLIT:sublingual immunotherapy、以下舌下療法)が保険適応となりました。
 アレルゲン特異的免疫療法(SIT:allergen-specific immunotherapy、以下アレルゲン免疫療法)は1910年イネ科花粉の皮下免疫療法(SCIT:subcutaneous immunotherapy、以下皮下療法)として始まり100年余りの歴史があります。我が国では減感作療法としてアレルギー性鼻炎や気管支喘息で行われてきましたが、長期間の注射療法、アナフィラキシーショックなどの副作用などのため臨床活用は限定的となっています。この欠点を改良した舌下療法がアレルギー性疾患の根治に向けてのブレークスルーとなるのではないかと期待が寄せられています。

アレルゲン免疫療法の作用機序

 アレルゲン免疫療法共通の作用機序として抗原特異的IgG4(阻止抗体)がIgEとアレルゲンによる架橋形成を阻害し、マスト細胞からの脱顆粒、ヒスタミン放出を抑制するという考え方が主流でしたが、その後の研究でTh1/Th2バランスなどのT細胞機能への作用が重視され、アレルゲン免疫療法により制御性T細胞の活性化、IL-10、TNF-βを介するアレルゲン特異的Th2型免疫応答の抑制、アレルゲン特異的IgG4やIgA産生の増加などが起こりTh1型免疫応答へのシフト、Th1/Th2バランスの是正という説が有力となっています。

アレルゲン免疫療法の実際

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 皮下療法はアレルゲンを少量から反復注射し、これらの疾患を根治(薬物療法フリー)または長期寛解に導くことが可能な唯一の治療法という位置づけでしたが、注射の痛み、頻回通院、一定の頻度で起こるアナフィラキシーショックが障壁となり一般に普及していないのが現状です。そこでより簡便で安全性の高い療法として舌下療法が注目され、2003年に治療効果に関するメタ解析で有用性が示されて以来、我が国でも日本医科大学を中心に基礎研究と臨床試験を積み重ね、1年余り前よりスギ花粉症舌下療法治療薬(シダトレン)が保険適応となりました。そして舌下免疫療法の講習とe-ラーニングを受け、緊急時の体制を整えた医療機関で治療が開始されました。
 適応患者としては、血中特異的IgE抗体や皮膚テストで原因抗原が明らかになっているアレルギー性鼻炎ですが、現時点では12歳以上の小児または成人のスギ花粉症で一般的な薬物療法で十分なコントロールが得られず、臨床的治癒・寛解を希望する患者とされています。
 治療開始に当たっては、花粉飛散前に3ヶ月の治療が必要なため、北東北では遅くとも12月以前に開始することが望ましいとされています。投与の実際としては、初回のみアナフィラキシー等の重篤な副作用の有無をチェックするために医療機関で投与・観察しますが、2回目以降は自宅での服用となります。舌下液の場合、1日1回舌下に滴下し2分間保持した後、飲み込み、その後、2時間運動、入浴、飲酒は控えます。副作用としては、口腔内掻痒や腫脹など軽微なものが多く、皮下療法と比べ重篤な副作用が少ないとされています。しかし、基本的に自宅で行う治療のため、初期の抗原増量期や体調不良時または花粉飛散期に副作用防止と発現時の適切な対処が必要となるため、初回から治療や副作用についての十分な説明と患者教育が重要です。

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図表鳥居薬品提供

臨床効果と今後の展望

 いち早く臨床応用の始まったヨーロッパの実績や我が国の臨床試験の結果から舌下療法の臨床効果は皮下療法と同程度と考えられ、副作用の面でも、舌下療法の方が安全性が高く、3~5年と長期の治療を要するアレルゲン免疫療法としてアドバンテージがあると考えられます。しかし、オランダでの研究によると、治療開始後の3年継続率が皮下療法の23%に対し、舌下療法で7%と有意に低く、アドヒアランス維持の重要性が強調されています。特にわが国では、保険適応後、短期間でスギ花粉症の時期を迎えており、過去の臨床成績では1年目より3~4年目の方が臨床効果が高くなっていることから、如何にして患者に治療を継続してもらうかが今後の課題と考えられます。
 2015年11月からはダニ舌下免疫療法も開始され、通年性アレルギー性鼻炎に対する新たな治療戦略として期待されています。気管支喘息について今回は適応を見送られましたが、現在までの皮下療法の臨床成績から、気道リモデリングの進んだ例や重症例を除外すれば、アレルギー性気道炎症や気道過敏性を改善し、現在主流となっているステロイド吸入薬や抗ロイコトリエン薬などの対症薬では得られない自然経過の改善を達成しうる治療法と考えられます。また小児花粉症患者を対象にしたランダム化オープン試験において舌下療法による気管支喘息の発症抑制や新規アレルゲン感作率低下も報告されており、舌下療法により花粉症やアレルギー性鼻炎から喘息や他のアレルギー性疾患への進展抑制効果が期待されます。今後のさらなる有効性と安全性の検討と早期の治療法確立が望まれるところです。

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